デス・オーバチュア
第310話「千億の絶望」




「踊れ、使徒(アポストル)達よ!」
女皇イリーナの背後から飛び出した『十三の十字架』が変幻自在に飛び回る。
まるで一つ一つが自らの意志を持っているかのような勝手気ままな軌道(動き)だった。
「ふん……」
ギルボーニ・ランは右腰のホルスターから『ガヌロン13(サーティン)』を引き抜く。
「斉射(せいしゃ)!」
舞い踊る全ての十字架の下先端から、白い光線が一斉に撃ちだされた。
「玩具にしては大した出力だ」
十三本の光線はギルボーニ・ランを取り囲むようにして掠め、衝撃と爆発が彼の体を宙へと放り上げる。
「神の玩具だからねっ!」
今度は十三の光線が一点(直接ギルボーニ・ラン)に向かって放たれた。
フォーティのような高速で宙を駆けれでもしなければ回避不可能なタイミング。
「……玩具は玩具だろうがぁぁっ!!!」
ギルボーニ・ランの全身から赤い光輝が溢れ出し、十三の白光(光線)を弾き飛ばした。
「神滅の闘気!?」
「遊びは省略しようぜっ!」
着地するなり拳銃(ガヌロン)から赤い光弾が放たれ、青く輝く十字架を撃ち落とす。
「ちぃっ、戻れ……」
「消し飛びなっ! 赤き裏切りの咆吼でっ!」
ギルボーニ・ランは、十字架達を呼び戻そうとしたイリーナを狙って引き金を引いた。
光弾というより高出力の光線のような『赤い粒子』が銃口から吐き出される。
「展開×3!」
十字架から白い粒子が全方位に放出され、六角形の盾を形取(かたど)った。
六角形の光盾が三枚重なるようにして、赤線とイリーナの間に割り込む。
光の爆散!!!
白と赤の交わった閃光が、イリーナとギルボーニ・ランの間(視界)を引き裂いた。
「ちっ、充電(チャージ)が足りなかったか」
「冗談、貫通されなかっただけマシってだけで、全然割に合わないわ……」
イリーナの足下には「壊れた三つの十字架」が転がっている。
「アウローラのリバースデルタと違って実体弾にも有効な粒子盾(ビームシールド)って言ってたけど……動力(元)がわたしの神闘気なだけに神滅の闘気とは相性最悪じゃないの」
一言で言うなら役立たず、失敗作だ。
少なくともこの状況下……対戦相手に限っては……。
「だから玩具だと言ったろう? 全部壊されたくなかったら、さっさっと引っ込めな」
「ちぇ~」
イリーナは遊び足りない子供のような表情で、生き残った十字架達を『玉座の後ろの空間』へと収納した。
「……てっきりスカートの中にでもしまうかと思ったぜ」
「それじゃ邪魔でしょう? 全力で動くのにっっ!!!」
イリーナが両手を大きく広げると、逆流する滝のような勢いで白き光輝が彼女の全身から噴き上がる。
「いきなりそれかっ!」
ギルボーニ・ランは、巨大な白輝の火柱のようにしか見えなくなったイリーナへ銃口を向けた。
『あの時と同じように『数』で押し切ってあげるわ……』
白輝の火柱から響くように聞こえてくるイリーナの声。
「何が全力で動くだ……一歩も動かずに終わらせる気だろう?」
ギルボーニ・ランの全身の赤輝の闘気がその先端……ガヌロン(拳銃)だけに集束していく。
『あなたがこの『一撃』で散るならそうなるでしょうね』
「フルオートへ移行……EXチャージ開始……」
全身の闘気を注がれたガヌロンが、爆発寸前の星のように激しい点滅を繰り返す。
『見るがいい、千億の……』
「聞け、裏切り者の……」
室内の明るさが突然変化した。
まるでいきなり大量の照明が付けられたかのように、『天』からの眩すぎる光が地を照らし尽くす。
『絶望!!!!』
『断末魔!!!』
白輝の光天が地に堕ちるより一瞬速く、ガヌロンから赤輝の粒子が激流の如き勢いで放射された。



光天、地に堕ちる。
……という言葉(表現)がこの技(現象)を表現するには最も適切だった。
地上を突然照らした光源達が一斉に降り注ぐその様は、まさに『光る天』が堕ちてきたとしか言いようがない。
「……ちっ……あの時とは一つ一つの威力が段違いだな……」
ギルボーニ・ランは真っ赤に染まっていた。
元々の赤い衣装の上に大量の新鮮な赤……鮮血がべったりと塗り重ねられている。
つまり大量出血で瀕死の状態だ。
「あの時はまだ子供だったからね……」
イリーナの声はすれども、姿は見えない。
なぜなら、この広大な「玉座の間」が「白十字の墓所」と化していたからだ。
白き光輝(神の闘気)で創られた十字架。
一つ一つがギルボーニ・ランより大きい白輝の十字架が、葬列のように規則正しく並び、室内を埋め尽くしている。
白輝の十字架が突き立っていないのは、ギルボーニ・ランの存在するスペースだけだ。
千億の絶望。
天へと放出した膨大な神闘気で、白く輝く十字架(神の刃)を瞬時に千億ほど創造し、一斉に豪雨のように降り注がせる。
無差別殺戮、無慈悲殲滅な神の御技(超広範囲型必殺技)だ。
「…………!」
唐突に、ギルボーニ・ランの前方の白輝の十字架達が砕け散り、イリーナが姿を見せる。
「まったく、この様じゃあ指も鳴らせないわ……」
イリーナの両腕は消し炭のように真っ黒で、力なく垂れ下がっていた。
おそらくあの両腕はまったく動かせないだろうし、仮に動かせたとしてもその瞬間に崩壊するだろう。
以前、戦った時、イリーナは指の一鳴らしで『千億の絶望の痕跡(十字架の葬列)』を消して見せた。
今回は指鳴らし(合図)ができないから、眼力で自らの十字架を打ち砕いたのだろうか。
「……ふん、今度はこっちが割に合わないな」
ギルボーニ・ランはガヌロンのカートリッジを交換すると、右腰のホルスターに収めた。
「あら、神の両腕を奪っただけじゃ御不満?」
イリーナは両腕こそ重傷を負っているが、ギルボーニ・ランと違って『消耗』した様子がまるでない。
何事もなかったように平然と……けろっとしているのだ。
「ああ、不満だね。過剰充電(EXチャージ)したガヌロンはしばらくは使い物にならないし……俺も出血多量でかなりヤバい……」
ギルボーニ・ランは手で額をおさえて、態とらしくふらついてみせる。
「ただの人間じゃるまいし……その程度、余計な血が抜けて却って調子いいくらいでしょう?」
「……まあ、何が一番割に合わないかと言えば……」
「言えば?」
「……その両腕、簡単に治るんだろう?」
やってられないぜといった感じでギルボーニ・ランは深く嘆息した。
「ぷっ、ふふふっ……あはははははははははははははははははっ!」
爆発的な高笑いに呼応するかのように、イリーナの全身から再び白輝の闘気が噴出する。
今回の神の闘気は天を目指すのではなく、イリーナの全身を薄膜で包むような形で留まり安定した。
そして、神闘気の膜の厚さと濃さが両腕に集中したかと思うと、見る見るうちに消し炭のようだった肌が白く美しい柔肌へと戻っていく。
「完治~♪」
イリーナが再生を終えた両腕を振るうと、彼女の周囲の白輝の十字架達が幻想的に美しく砕け散った。
「まったくふざけてやがる……」
ギルボーニ・ランも相当『死ににくい肉体』をしているが、ガルディア皇族のような異常な回復力や再生能力は有していない。
彼の神滅の闘気は、その名の通り『神』に対して有効(有害)な効果を発揮するが、神闘気のような肉体の強化(防御)や維持(回復)の効果は薄かった。
闘気のことだけに限らず、攻撃に特化、神を滅することを最優先に設計された生物(存在)なのである。
「聖皇閃(せいおうせん)!」
突然、イリーナの右掌から白い閃光が放たれた。
「たく、タメなしで『裏切りの咆吼』と同等以上の威力とかふざけすぎだろう……」
ギルボーニ・ランは跳び上がって「白い閃光」をかわす。
ちなみに「裏切りの咆吼」とは、イリーナの粒子盾×3を破壊した『赤い光線のような一発』のことだ。
ガヌロンによる『神滅の銃技』は、弾丸に軽く闘気を込めた神滅弾、拳銃自体に闘気を限界まで充電(フルチャージ)した「裏切りの咆吼」、限界を超えた過充電(EXチャージ)で暴発覚悟で放つ「裏切り者の断末魔」の順で威力は高くなる。
「ふん」
ギルボーニ・ランは白輝の十字架の上に着地した。
彼が先程まで立っていた場所の後方にあった白輝の十字架は全て消し飛び、『道』ができている。
「自分の力で創ったモノを自分の力で破壊するか……まさに力の無駄遣いだな」
「創造と破壊……まさに神の所業でしょうっ!」
イリーナはギルボーニ・ランに向かって新たに聖皇閃を放った。
「ちっ!」
ギルボーニ・ランは全力で跳び離れ、別の白輝の十字架の上に移動する。
「聖皇斬(せいおうざん)!」
白光一閃。
イリーナが右手の手刀を振り上げると、彼女とギルボーニ・ランの間に存在する『全てのもの』が真っ二つに両断された。
「ざんっ! ざんざんっ!」
「とう、おっと ふっ!」
右手刀を振り回すイリーナと、十字架から十字架へ跳び回るギルボーニ・ラン。
玉座の間を埋め尽くしていた白輝の十字架が次々に破壊され、見晴らしが良くなっていく。
「くっ、ガヌロンが使えないのが痛いな……まあ、闘気さえ込めなきゃ撃てないこともないんだが……」
結構余裕ありげに避け続けているギルボーニ・ランだが、遠距離(この状態)からの反撃手段はなかった。
神滅の闘気を込めない弾丸など、イリーナの神闘気の薄膜すら撃ち抜けないだろう。
対神族用の特種弾丸であるにも関わらずだ。
なぜなら、対神族用といっても弾丸の材料や染み込んだモノが神にとって有害なだけで、神闘気の圧倒的な威力に耐えられるようにはできていない。
神滅の闘気で弾丸をコーティングしない限りは……。
「俺も掌から撃ってみるか? 粒子砲(ビ~ム)って感じで?」
無論、冗談だ。
そんなことは一度もやったこともない。
「俺の場合……やっぱこうかっ!?」
ギルボーニ・ランは左腰の極東刀を引き抜くなりイリーナへ投げつけた。
「つうっ!?」
赤い闘気を纏った極東刀がイリーナの足下に突き刺さる。
そして、次の瞬間、赤い大爆発が巻き起こった。































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一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。






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